のれんの向こうにあったのは宝箱みたいな〝布〟の世界 布楽和 タツカワさん

のれんの向こうにあったのは宝箱みたいな〝布〟の世界 布楽和 タツカワさん

最初は、何のお店かわからなかった。藍染木綿ののれんが揺れる店先には「布楽和」の三文字。ガラス戸越しにそっと中をのぞくと、一人の女性と目が合った。思い切って扉を開ける。出迎えてくれたのは、店主のタツカワさんだった。

入ってすぐに目を引かれたのは、中央の大きな机。紙や布が広げられ、何やら作業中のよう。その奥には所狭しと洋服やバッグが吊るされている。「古い着物の生地もありますよ」と、そう言って案内された一角を目にした瞬間、胸がときめいた。丁寧に解かれ、丸く巻かれた反物の山。渋めのモダン柄や淡いマーブル模様まで、驚くほど多様な生地の数々に、何だかクラクラしてしまう。店の奥には、希少なちりめんや、絵絣や型染の木綿のハギレまで!手芸好きの心を撃ち抜く、まるで宝箱のような空間なのだった。
聞けば、こうした着物生地は、タツカワさんが全国各地の蚤の市で集めた一点もの。店内の洋服も手づくりで、やはり古い着物をリメイクしたものだという。あらためてお店を見渡すと、なるほど、工業用ミシンやロックミシンも揃っている。大きな机は縫製のためだったのだ。

「正確に寸法を測って仕立てるより、日常づかいで気軽に着られる洋服をつくるのが好きです」そう言って笑うタツカワさんは、小さい頃から針仕事が好きで、洋裁学校に通い本格的に技術を学んだ。平成元年に、南富山で友人と洋服のリサイクルショップと、手づくりの和布小物を扱うお店を開業。
その後、クリーニングの取次業にも手を広げたが、時代の流れで閉業を余儀なくされる。そして、和布のリメイク品専門店として、心機一転、オープンしたのがこの「布楽和」だ。

「私が来た頃とは、まちの様子もずいぶん変わりました」と、昔を振り返るタツカワさん。かつては隣に酒屋さんや下駄屋さんがあったという。
「酒屋さんのおばあちゃんは、よく着物を解くのを手伝ってくれました。向こうには喫茶店もあって、友達と休憩がてらにお茶をするのが楽しみでした」
今では、そうしたお店はほとんど無くなってしまったけれど、それでも、地域とのつながりが途絶えたわけではない。「布楽和」では、毎週水・金曜日に洋裁教室を開いており、中には七~八年も通い続ける地域の常連さんもいるそうだ。形式ばった教室ではなく、お裁縫の時間をともに楽しむ〝まちの居場所〟のような場所。
「専門的な技術は教えられませんが、おしゃべりしながら一緒に手を動かす時間を楽しんでいます。着物や手仕事に興味がある人は、気軽に立ち寄ってほしいです」

宝物のような生地の山を前に、さんざん迷って五点ほど買い求めた私。まずはクッションカバーを作ってみよう。完成したら、きっとタツカワさんに見てもらうんだ。そう心に決めて、ほくほくした気分で店を出た。


布楽和
店主が各地で集めた古い着物や、それを使ったハンドメイドの作品を展示・販売。
[営業時間] 12:00~17:00
[定休日] 日曜・祝日


文/白石沙桐

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